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少しずつ 心に入り込む 訪問者
インターフォンのモニター画面は、昨日と同じ男性が映っていた。
{あっ! またあの人}
「はい なんですか 3日も連続で」
「あのー 今日も良い生野菜を収穫したもので 是非ご試食だけでもと」
「家では 料理しないんです お引き取りください!」
柚木は怒った口調で男の話をたたみかけた。
「ごめんなさい 失礼いたしました」
モニター越しの若い男性は、今日も深々とおじきして去っていった。
{まったく! またあのストーカー野郎}
「まてよ ストーカー野郎はないか ちょっとイケ面でタイプだしなー」
ーーーー翌日-----
ピンポーン
インターフォンのモニター画面は、またあの男性が映っていた。
{あっ!あの人 また来たの}
柚木の中に、妙な期待感が芽生えていた。
「あのー 今日は珍しいサラダ菜をお持ちしましたのでご試食を」
{しつこい奴}
「本当に 結構です」
「でもー」
「しつこい人 嫌い 結構です」
「大変失礼いたしました さようなら」
柚木より3歳くらい若そうな男性は、丁寧に頭を下げ去って行った。
ーーーー翌日-----
{あの人 今日は来ないのね よかった!}
ーーーー翌日のその翌日-----
{あの人 もう来ないのかしら 諦めたみたいね よかった!}
そう安堵する、柚木の心中に、ちょっと気になる芽が成長していた。
{今日で3日目ね そう言えば さよならって もう来ないつもりだった?}
ーーーーその翌々(5日目の同じ時刻)-----
ピンポーン
インターフォンのモニターには、もう見慣れたイケ面が映っていた。
「はーい」
{なによ あたしったらソワソワしちゃって}
「柚木さん 今日は珍しい果物をお持ちしました 如何でしょうか?」
{あーあ 気を揉んで損しちゃった でもなんか嬉しいような
ダメダメ 赤の他人にひかれちゃってー 馬鹿みたい あたし}
「何度も来られても 興味有りませんから お引き取りください!」
「そうですか では失礼します」
男性は、今日も丁寧に頭を下げ去って行った。
{あー あ 行っちゃたー なんか惜しいようなー}
「こんど来たら話しくらい聞いてあげようかな うん話し聞くだけね}
柚木は、心境の変更に自分で回答をこじ付けていた。
しかし、それから3日たっても男性は、訪ねて来なかった。
{なによ あいつ 次来たら話くらい聞いてあげるのにー}
柚木の心には、いつの間にあのイケ面男性が入り込んでいた。


梅雨空に 有機野菜を 売る男
これは、ある友人の不思議な体験談で、いまも進行形なのだそうです。
どんな結末になるのか、想像しながら暖かく見守りましょうね。
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篠崎 柚木(仮名)は、小さな輸入家具専門商社の人事部に在籍して数年
になる若手女子社員である。
ところが、数か月前から猛威を振るう新型ウイルスの影響により、来年度
の新規採用も中止となり5月からは、テレワークという体の良い自宅待機
組にさせられてしまった。
給与は出ると言っても60%もカットになり、リモート会議以外は特にノルマ
もやることもない退屈な日々に飽き飽きしていた。
{あーひま 医療関係者には悪いけど なんか 刺激的なことないかなー}
ピンポーン
17時を少し廻った頃、モニターカメラ付きインターフォンが鳴った。
{あらっ! こんな寒い雨の日になにかしら? またNHKの勧誘?}
ピンポーン
「はーい」
「あのー オーガニック野菜販売キャンペーンなんですがー」
インターフォンのモニター画面は2~3歳年下の長身の男性が映っていた。
「わたし あまり自炊はしませんので 結構です」
「新鮮な果物も有りますので ご覧になるだけでもー」
「いえ 今日は結構です」
「では 失礼します」
ーーーー翌日-----
ピンポーン
{あらっ 昨日と同じ時間に! また同じ人?}
「今日は もぎたての果物をお持ちしました」
「いえ 結構です」
「ご試食だけでもー」
{しつこい人ね}
「 結構です」
「でも せっかくー」
「 結構です」
「失礼いたしました」
モニター越しの若い男性は深々とおじきをして足早に去っていった。
{なんなの あの人 しつこいわね でもちょっとタイプかな}
「ばか! ただのオーガニック野菜販売員じゃない!」
柚木は、思わず一人言を呟いた。
ーーーー翌日-----
ピンポーン
インターフォンのモニター画面は、昨日と同じ男性が映っていた。
{あっ! またあの人}

