焦らし終え 拓哉を欺く 柚の罠 

「はい 悟 今日は お疲れさま 最後に赤ワイン如何!
 今度また タクヤくんと再勝負出来るように お仕事頑張ってね」
悟は、柚木の意味深な励ましと、3個のワイングラスに注がれた赤ワインの
残り2個は、柚木と拓哉が後で飲むのだろうと推測した。

つまり自分は、完敗したのだと確信し、しょんぼりと帰宅した。


柚木は、最初から勝負の行方を見えなくして、二人とも負けたのだと思い込
ませる算段で招待したのだった。

{これで あたしが付き合いの優先順と方向を決められるわ}

柚木は、残った2個のワイングラスを手にして窓辺に座ると、早々に帰宅した
拓哉と悟へ仕掛けた計略の大成功を味わって飲み干した。
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「勝者は このあたいだよ~ タクヤ 悟
 次はどんな計略を仕掛けて欲しい? うふふ アハハハハ!」
と冷たく微笑む柚木は、男性を貶める妖女の態を醸し出していた。

{これからの 第二幕は どんな展開ししようかしら
 やっぱり 焦らしが効果ありそうね うん}


柚木は、それから1ヶ月間も沈黙を守っていた。
あれ以来、悟もこれまでになく遠慮気味になり、呼び名もユズから柚木ちゃん
に戻した。そして気軽に食事を誘う事も無かった。

拓哉も、勝負で負けた以上自分の方から電話は出来ない。

二人とも、柚木とは勝負で勝った方が付き合っているに違いないと勝手に思い
込み、自分から柚木に連絡する事はなかった。

更に1ヶ月後の金曜日23時50分
「もしもし タクヤくん お久しぶり~ 元気?」

「あっ 柚木先輩 お久しぶりです 元気は元気でなんすが・・・・」
拓哉はそれ以上の言葉に詰まった。

「こんな時間にどうしたのですか?何かトラブルでも?」

「ううん  タクヤくんと・・・・またお話したかっただけ・・・・」

「はっ はい 光栄ですけど 悟兄さんと喧嘩でもしたのですか?」

「そんなことないけど・・・・ また会いたくなったの・・・・」
柚木は、悩みで精気を無くした様な弱い声で拓哉の興味を誘った。

「柚木先輩  もし僕に出来る事があるなら・・・・どんな事でも・・・」
拓哉は、2ヶ月もの間連絡もしないでも、柚木が何かに悩み、突然電話をかけ
てきたのが思いがけなく、また嬉しかった。

「電話では話辛いから またお家にこれる?」

「はい 勿論です」

「今週金曜 19時のどお?」

「金曜 19時ですね 必ず伺います」

「ありがとう 待ってるね」
柚木は、久しぶりに拓哉と会える喜びでワクワクする気持ちを抑え最後まで低い
トーンで電話を終えた。
それは柚木の計略第二弾の始まりであり、 拓哉に対する愛の表現とも言えた。 
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