未練断つ 決意の名月 夢出会い

柚木は、拓哉の顔が印刷された袋をゴミ袋に入れた。
ついに自分から電話する2度目のチャンスまで閉ざしてしまった。
「やはり縁がなかったのね さようならタクヤくん」

あれから3ヵ月
{この奇麗な月をタクヤくんも見ているかなー}

{そうだ! 中秋の名月にはやっぱり日本酒が合うわね}
柚木は、そう思い立ち近くのコンビニに向かった。

例年になく暑かった季節も遷り、ひんやりとした車窓にはオレンジ色に染
まった月が寂しそうに東の空に登っていた。

{この名月を柚木さんも観ているだろうか もう一度会いたいなー}
{ダメだ 明日は引っ越しじゃないか 早く荷造りをすまなきゃ}

拓哉は順調に売れ始めた、オーガニック野菜生産の規模を数倍に拡大す
べく、この町から数キロ離れた農園と古民家の貸借契約を結んで、明日は
引っ越す段取りになったいた。
そして
最後の晩餐は、せめて柚木の近くのコンビニ弁当と思い車を走らせていた。

{んーーー どれにしよか やっぱ辛口の剣菱か
 いや久保田もいいわね でも名月には越乃寒梅かなー}

元酒店だったコンビニは、昔の名残で日本各地の名酒を揃えている。

{あれ 柚木さんだ
 高いお酒をあんなに買って 大事な人と飲むのかなー
 そんなことより
  お別れの挨拶しようか でも・・もう終わっているのだしー}

拓哉は、そう思いながらも、ひどく動揺し鼓動まで激しくなっていた。

{あら~ タクヤくんたわ!}

{どうして ここまで買い物に来ているのかしら?}

柚木は、そう思いながらも嬉しい再会に、心をときめかせている
自分を抑えきれず
「あら~ タクヤくんじゃない!」
と歩み寄った。

「ゆっ柚木さん こんばんは」

「タクヤくん お久しぶり~ でも どうしたのこんなところで!」

「あっ あのう 実は・・・・・」

「ねーね お久しぶりだから お家に来ない? 美味しいお酒もあるし」 

「いえ 光栄ですが 車ですしー」

「そおお もし酔ってしまったら泊まってもいいのよ タクヤくんなら」

「あのー 実は 明日引っ越しするんです」

「あっ お引っ越しするの! 急に私ったら可笑しいわね ごめんなさい」

「いえ 引っ越の前に挨拶だけでもと・・・ でも最後に会えてよかった」

「そー もう これが最後なのね だったらお茶だけでもどうかしら?」

「はい じゃーお茶だけなら」

「うん どうぞ どうぞ」
柚木は、いつもの自分とは別人の様に浮足立つ自分に驚いていた。

拓哉も、柚木の積極的な誘いに戸惑いながらも、快く乗ってしまった。
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